第二章

XII

 この広い世界の中から、たった一つの『石』を探すって・・・
 『亀』って書いてある石を探すのより断然難しいと思うんだけど・・・
 形状わからないし。
 どんなものなのかもわからないし。
 感知出来ないようなものなんだったら、どうやって探したらいいのだろう。
 レア様が私にぶら下げた問題は、最初から難しすぎて、どこから手をつけていいのか結局わからない。
 参った・・・
 最初からなんていうかもう、お手上げ・・・状態。
 でも道標がないわけじゃない。
 やっぱりそれには、人間界に逃げて行った、私の契僕を追いかけないといけない・・・

 『聖石』は、必ず私の契僕を選ぶ。

 レア様はそう断言した。
 それじゃあやっぱり、使い手を先に押さえた方が私としては近道な気がする。
 でもそれはそれで、問題も山積みなのだ。

 私がうんうん悩んでいる間に、気がつけば卓の上にあった朝食は片付けられていた。
 執事アイスさんはてきぱきとカートに空になった皿を載せ、その代りにグラスを置いていき、デカンタから赤黒い液体を注ぐ。
 レア様が一口含んで
「あら?」
 と、不服そうな声を出したんだけど、アイスさんはぴしゃりと
「朝から酒はいけません」
 とはねつけた。
 ・・・さっ、酒、呑むんですかやっぱり・・・っ。
 明からさっきちょっとだけ聞いてはいたんだけど意外すぎてリアクションできない。
 そんなやりとりを盗み見つつ、赤黒い液体を飲んでみたら、グレープジュースだった。美味しい。

 ・・・はぁ。
 ・・・どこから片付けて行こうか。
 兎に角、レア様はこう言っているんだし、きっと何か協力してくれるつもりで私をここに呼んだのだ。
 あてに出来る事があったらあたってみなくては。
「あの」
「はい?」
「やっぱり、人間界に行こうと思います」
「「ええ!!」」
 レア様は静かに私を見ていたんだけど、お兄ちゃんとチムさんはやっぱり吃驚したみたいだ。
「だって、放ってはおけないよ・・・ 契僕が人間界に行っちゃうって、凄く大変なことだと思うし」
「でも、明は行かないほうがいいって、危ないから・・・って」
「もし、釣りであんな事したんだとしても、やっぱり行かなきゃいけないと思う。ああいう手段に出なきゃいけなかった理由も知りたいし、それに、彼は・・・ もう、女王様の毒にやられてるんだよ」
「・・・!!」
「何も出来ないかもしれないけど、逆にこれはチャンスなのかもって、思うところもあって」
「チャンス? 何の」
 お兄ちゃんは訝しそうな表情をした。
「これは、私の憶測なんだけどね、さらっと聞き流して欲しいんだけど」
「・・・?」

「お父さんは、女王様の事、気付いたから謀反なんて・・・とか」

「・・・!!!」
「それだったら繋がるの。お父さんが突然そんな行動に出た理由。誰にも相談できなかったとか、全部・・・」
「でも・・・ でもそんな」
 お兄ちゃんの顔に動揺が浮かぶ。
 昨日から。
 昨日からずっと考えてた。
 女王様がおかしくなっちゃったこと。お父さんが突然謀反を起こして出奔したこと。
 この二つは繋がっている気がする。

 女王様が悪い事をしているとか。
 毒が拡がっているだとか。
 食人鬼を止めなきゃいけないだとか。
 清めなきゃいけないだとか。
 そんな大義名分よりも。

 お父さんの、謀反を起こした理由。

 それこそが、私にとって一番の、今、『起つ』理由に繋がる気がする。
 今は、たとえお兄ちゃんやチムさんが全力で反対してきても、引いちゃいけない。

「思えば、私が『ハンター』資格取ったのだって・・・ お父さんに帰ってきて欲しかったからで・・・ 今、丁度良く『ハンター』資格、役に立ちそうなんだよ。全然仕事出来なかったけど・・・ 異界に行く許可が降りるんだから、使わない手はないじゃない?」
「・・・正直言うと、僕は・・・ 父さんのことはもう諦めていたんだ」
「・・・」
「・・・でもレインがそう信じるなら。僕も信じる・・・事にするよ」
 お兄ちゃんは、まだ何か言いたげだったけどそれを押し止めた。

 ごめんね、お兄ちゃん。
 小さくて何も分かってなかった私よりも、何もかもわかっていて私を守ってくれていたお兄ちゃんが、お父さんに対して強い不信感を抱いているんじゃないのかって事、気付いてるのに・・・
 でも私は信じたいから・・・
 優しかったお父さんのこと、まだ、信じたいから・・・
 真実がわかるまでは、そう信じていたいから・・・

「・・・僕が王宮御用達を辞めて街に降りたのも、ズグウの進言だったからだよ」
 チムさんが、徐に口を開いた。
 さっきから積極的に話そうとはしていなかったチムさんが、漸く発したその言葉は、もしかしたら私が掴みたい藁の、先っぽのような気がした。
「・・・レインちゃんがそう決めたのなら、行くといい。もしかしたら、あいつもどこかで見ているかもしれないから」
 言葉は少ないけど、チムさんの言葉がとても私を後押ししてくれたような気がした。

「ありがとうございます。チムさん。お兄ちゃんも・・・ 私、無茶はしないようにするから」
「それはどうせ無理だろ、猪なんだから」
「う゛。で、でも気をつけるってば」
「私もお守りいたしますし」
「うん、あてにしてるから」

 私は一口グレープジュースを戴いてから、レア様に向き合う。
「で、行くに当たって、色々問題があるんですけど、クリアにする為に少し知恵を貸していただきたいんですが」
「ああ、お金が要るのよね?」
「・・・・・・」
 どう婉曲して伝えようかと思っていたのに、レア様が私の思惑のどストライクを狙ってきて、打ち返すことが出来ずに思わず絶句。
 ・・・お金を強請るのを読まれたのが結構ショックで、恥ずかしさで顔を上げられない。

 そう、『ハンター』は、異界に行く資格は確かに持っているんだけど、ただ、それだけなのだ。
 『異界に行く事』は、法で禁じられている事なので、その資格を得るという事は絶対に必要な条件なんだけど、資格の他にも異界に渡る為にはギルドの発行する『通行証』と『異界滞在許可証』がどうしても必要になる。
 特に、『通行証』・・・が、とても厄介なのだ。
 例えば、今みたいに行く時は一枚で良いんだけど、帰りの分にもう一枚必要になってくる。
 何故なら、逃亡者の分も発行しなくてはいけないから。
 それがもう・・・ アホみたいな値段なのだ。
 ただでさえうちは、借金苦に喘いでいると言うのに、そんなアホなお金をかけてなどいられない。
 かといって、資格を持っているからと言って『通行証』なしで異界に行くと、アホの上塗り、知られた時のペナルティが半端ない金額な上、資格を剥奪こそされないもののまともに働けないレッテルだけは残され、しかも、『異界滞在許可証』を持たずに異界に行くと、そこに出稼ぎに出ている『ハンター』によって、逆にこちらが狩られる懼れさえある。
 それもとても馬鹿馬鹿しい。
 しかも、ギルドの斡旋する住居の質は最悪で、そのくせレンタル料は馬鹿高い。
 ただ、連れ帰ってくれば、『通行証』を発券したギルドから破格の報酬が出る。
 だから実入りのいい仕事として『ハンター』は存在しているのだけれど・・・

 まあ、セレブじゃないとできない仕事、なのである。

 知らなかったわけじゃないんだけど、甘く見すぎていた。
 1回分の『通行証』さえ発券して貰えれば、報酬で借金ごっそり返せると思っていたんだけど、経験が少なすぎる私を信用して依頼してくるお客様なんているはずなかった。
 地道に稼げば何とかなると思っていたんだけど、資格を取るのだって、やっぱり普通の学校に行くのよりもお金がかかりすぎた。
 お兄ちゃんの開業費だけでも借金を重ねていたのに、私の学費も嵩み、結果、お兄ちゃんにはナイショで闘技場で荒稼ぎをするはめになった。
 これはこれで稼げるんだけど、今のペースで稼げていても借金がなくなるのはだいぶ先だ。
 その上で、今、異界に・・・ 人間界に行く余裕など、我が家にはない。
 それこそ馬鹿げた話で、私の『ハンター』の資格だけが、燦然と『宝の持ち腐れ』であることを誇示するだけなのだった。
 現実を知らないと言う事が大きな障壁となると言う事を、私は知らな過ぎた。
 浅はかな考えで身を滅ぼす、と言う事があるのなら、きっとこういう事をいうのだろう。
 私は自分の身に起きる事を、いつも、一拍置いて考える所があるんだと・・・自覚はある。
 現実を、現実として受け止めると・・・苦しすぎるから。
 今だけ、今だけ苦しいんだ、きっと、いつかはここから抜け出せる。
 そんなふうに思って、今が苦しい事も、強く意識しないように振る舞うのが・・・処世術になってしまっている。
 これは、逃げでしかない。現実から逃避する事が、心地よくなってしまっている醜い性根。

 お金がない、と言う現実は、私が捉える現実の中で、実は一番キツイ現実だった。
 それを、ふわふわした存在のレア様から突きつけられたことで、心に深く棘を刺されたような感覚を味わって、私は固まる事しかできなくなった。

「貴方が資格を取って、いつまでも闘技場とかバイトで食い繋いでいるのはそれだけが原因とお見受けするわ」
「・・・うぐ」
「こう言うとすごーーく好感度がガタ落ちするのは目に見えているんだけど、私、お金はいっぱいあるの」
「・・・」
 レア様、自分のキャラを十二分に理解した上で、さらりと凄い事を言った。
 流石に、私だけじゃなくて他の皆もぎしり、と固まった気配がした。
 その中で、スノウとアイスさんだけが平然としている。
 精霊さんたちには、お金のことには興味がないらしい。
 人とは、悲しいものだと、遠い所で思った。
「さらっと軽く、スポンサーがついたと考えてくれれば、いいんじゃない?」
「え、あの、それは」
「かといって簡単には受け取れないだろうから、借りておく、と考えてもらっていいわ」
「・・・」
「『聖石』を見つけ出して、『勇者』を連れ戻して・・・ ダリアを『何とか』できたら、私は貴方に大きな借りが出来る。その分は、報酬として支払います」
 レア様はそう言うと、一口グレープジュースを含んだ。

 あああ。
 馬の鼻先にニンジンをぶら下げる。って、きっとこういうことなんだ。

 あれだけさっき重い話をしたのに、でも、レア様は普通に『仕事の依頼』っぽく話を振って来た。
 こう言う方が確かに受け入れやすいし、『世界を背負え』だの『女王を正気に戻せ』だのは、私に言われても困ってしまうことなんだけど。
 でもこの依頼が、それに直結していると言う、手の内を見せた上での事。
 絡めとられたんだと思うと同時に、流石だ、と、思ってしまった。
 数瞬、迷いは頭をめまぐるしく駆け回ったけれど、逃げる事ではないし、それに・・・
 やはり純粋に、私は、あの、表情の良く変わる『明モドキ』と、しっかりと向き合いたい、それが決め手になった。
「えと、じゃあ、お金、少しだけお借りします。必ず返しますから!」
「良い返事ね。ありがとう。それと報酬の事も決めないとね。一応、ギルドを介して貴方を指名で依頼を通すわね。依頼者が私だとはわからないように工作しておくし、報酬額もギルド公式額に色をつけて、後できちんと支払うから、それでいい?」
「も、勿体無さ過ぎるくらいに厚待遇です。恐縮です」
「あ、でも、あっち、行ってからの方が大変、って噂、聞いたわよ?」
「あー・・・」
 何でもお見通しなのか・・・
「えと、まあ、何とかなると思います」
「駄目よ!! スノウは必ずヒトカタで傍に置いておくようにしてね!!??」
「はあ・・・」
「虫除けよ」
「・・・」
 凄い台詞言ってます。レア様・・・
 でも、『ハンター』は、異界に行ったら異界のアジトで『ハンター』同士で共同生活をしないといけない。
 で。
 基本、『ハンター』は、屈強な男の人であることが圧倒的に多いから、あのアジトは女性が入るだけで割と大変、らしいのだ。
 研修の時は教官が必ず目を光らせていたけど、フリーとなるとそうはいかない。
 それはもう・・・ 何かもう、凄いらしい、と、話には聞いている。
「本当は、安全面でも不安が残るから、完全セレブ待遇で送り出してあげたいのだけど、それだと不自然でアシがつく。だから・・・ そこまでのバックアップはできないわ。でも・・・ それは貴方も臨む所、でしょう?」
「はあ、これからの生活圏ってこと、自分に叩き込まないといけないですから・・・ 遅かれ早かれ、経験しなくちゃいけないことでしたし」
 それは、実情を知った時点で出来ていた覚悟。
 心配されることではない。
「ふふふ。意外と骨がありそうね。頼もしくて心強いわ」
「いえいえ、バックアップが凄まじいですから、ポシャレないです」
 ここまで強力なバックアップがあるなら、何とかなる気がする。
 それに、契僕は敵じゃない。
 きっと、ちゃんと話せばわかってくれるんじゃないかな・・・
 こっちに悪意があるわけじゃないんだし・・・
 私は甘く考えていたのだけれど、またレア様から恐ろしげな台詞が飛び出してきた。
「・・・レイン、あなたの契僕・・・門を破るほどの力を持った『勇者』の力は、パワーバランスを狂わせるほどに強力な存在なの。だから恐らく、ダリアも躍起になって捕らえに行くと思うし、危険が付き纏うわ。明と同じように、ね・・・ ここであなたが出て行くのはダリアにとっても好機と見るかもしれないけれど・・・ あなたの『勇者』の背後には、巨大な勢力がついている気がするの」
「え・・・っ」
 きょ、巨大な、勢力!!??
 ・・・って・・・それは、門を破らせたことからも、察することが出来ること。
 ただ逃げるだけなら、『結界すり抜け』を使えば済むこと。
 そしてあのメンバーの中には、とても強い術者しかいなかったことからも、門を破壊することが目的だとしたら、あの人たちはきっと・・・ 異界からの侵略者なのでは。
 そうだ。今朝、思い当たって明に言おうとしたんだけど明が『巻きで』行動してたもんだから全然話せなかったんだっけ・・・
 多分、あの時既に、『ドゥエ』に追われていたんだろうな・・・ 今になって、そう察したりして・・・ 鈍すぎる、私。
「本当は、その勢力すらも撥ね退けたいところなんだけどね・・・ 昨日、門を破る時の様子を見て気が変わったわ」
 き、気が変わったってそんな。
「彼らの・・・ 志の高さ。誰も殺さないという強い意志で臨んでいる姿勢に希望を見出すことが出来るのではないかと思うの。戦争は何時でも人の命を沢山奪うわ。でも、彼らはそれを引き起こそうとしながらもそれを最小限に食い止める努力は惜しんでいない。・・・私は、そこに賭けたいの」
「・・・では、侵略を許すということですか?」
「最悪、ダリアには退いてもらわないといけないかもしれないから・・・ 有能な支配者なら、こちらとしても抱きこんでおきたいし、侵略者としても私の事は知っているだろうから、私を利用したいでしょうし、ね・・・」
「そんな・・・」
 レア様は最悪の事態までも見越して、その上で考えて言っている。
 でも全てにおいて、丸く収まる方法ではなく、妥協案でしか、ない。
 現状、穢れを拡げるのを食い止める為に女王や『十の牙』を明が殺さなくちゃいけない。
 その上で巧くすればシアド様を救えるかも。味方につけることが出来るかも・・・でも、不確定。無事かわからないし・・・っていうのは、禁句だ。
 女王や『十の牙』も救うためには、あてになるかどうかは甚だ怪しい『聖石』と、逃げた私の神族の契僕を連れ戻さなきゃいけない。
 つーか多分、『聖石』は雲を掴むような話だけど、私の神族の契僕はとりあえず放っては置けない。連れ戻すとかじゃなくても、迎えに行くのは、確定事項。今まで放って置いていること自体がもう異常事態なんだし、これは私にとって既に避けられない事だ。
 『聖石』が見つからなかったり、女王を殺してしまったりしたら、結局は王位が空位になるから他の有能な支配者に挿げ替えなくちゃいけない。
 空位になってしまったら・・・ また世は荒れるんだろう。そのあたりのことはまだ、全然想像できないんだけど・・・
 レア様は、そのための人身御供になる覚悟まで、もう、出来てしまっているのだ。
 ・・・皆が幸せになる方法なんて、本当にないのかな・・・
 ・・・でも、そんな、幸せの尺度なんて、私が決めていいものでもないし・・・
 う〜ん・・・
「だけど、そんなに悲観することでもないと思うのよね、あの様子を見た限りでは・・・」
 レア様は少しだけ微笑んで言った。
「人間界を選んで逃がしたのは、きっと争いを避ける為でもあったのではないかしら。それに、利用されているのを理解した上で、あなたの『勇者』はそれを受けているような節があったし、彼らの間にも強い信頼関係が出来ていたように思うの。もしかしたら、最低限の『引き算』で、済むかもしれないわ・・・」
「・・・」
「もう、諦めてしまいたい気持ちは私にもあった。こんなところに引き篭って、絶えず世界に浄化を施す為に術を組み上げているだけだなんて、何もしていないのと一緒だわ。だけど、彼らは戦う意思を見せている。ダリアを糾弾しようとしている・・・ その志を、私は知りたいとも思っているの」
 レア様、浄化の為に術を組み上げていたんだ。
 ここに引き篭っていたのはそれが原因なんだ。
「それって・・・何もしてない、どころか、物凄く大変なんじゃないんですか・・・?」
「穢れが拡がらないようにオルガン弾いてるだけだから大したことはしてないわ。夜はどうしても穢れは拡がるし・・・」
 オルガン。・・・アレだ!! さっきの巨大パイプオルガン。
 そんな神通力があったのか・・・
 それならなおさら私は急いだ方が良い気がしてきた。
 レア様の負担が大きすぎる。
「僕は役に立てますか?」
 お兄ちゃんがレア様に聞いた。
「明が貴方たちを匿ってほしくて、こちらに送ったのを知っていて、こんな事頼むのは人としてどうかとも思うのだけど・・・」
 レア様は躊躇いを少しだけ見せた。
「インティナでの、城下町での情報収集をお願いできないかしら」
「そんなことなら喜んでいたしますが・・・」
 チムさんは了承しながらもちらりとアイスさんを盗み見た。
 アイスさんは情報通なのに自分たちが役立てるのか、という疑問は確かにわかる気がする。
「アイスは、人々の口にのぼる情報は不得手なのよ。現実に起きた事しか再現できないから。だから人の目で見た、城下での様子を知らせてもらえないかしら。明はもう白霞宮に缶詰だし、グレイたち元老院貴族達にはインティナのことは詳しくは把握できないから」
「わかりました」
「いざ、危ないって時の為に、これを渡しておくわ」
 レア様は本当に無造作に、背中にばさっと翼を具現化させた。
 お・・・ 大きい・・・
 両方拡げたら5mはありそうだよ・・・
 私は両方広げても1m程もないから、少し凹んだ。
 凄く綺麗に生え揃った羽根。一枚一枚が産毛みたいな私と違って全てが大きくて・・・
 ああ、やっぱり凄いお方なんだなぁ、羽根を広げただけで部屋が明るくなった気がする。
 きらきらと光の粉を撒き散らしている気がする。
 見ているだけでも癒されるって、きっと本当なんだ・・・
 うっとりしながら見ていたのだけど、思いがけずレア様はぶちぶちと自分の羽根を何枚か無造作に毟り取って、お兄ちゃんとチムさんに渡した。
「人間界、日本の民話だったかしら。『三枚のお札』みたいに万能に使えるから、困ったときにはこれを使って。売らないでね?」
 まさにレアモノなので、レア様はにっこり笑って釘をさした。
 お兄ちゃんもチムさんも職人だから、これ、使おうと思ったら最大限に力を引き出して使える。
 しかも結構な枚数。
 チムさんは兎も角、お兄ちゃんは迷わず患者さんに使う気がするなぁ・・・ 不安だ。
 お兄ちゃんは患者さんに私の羽根を使ったりするから・・・
「どう使っても構わないのだけど、貴方たちに何かがあると、明やレインに累が行くこと、考えて使ってね」
 レア様は私の不安さえ読み取ったのか、少し厳しい口調で言った。
「状況は最悪で、大したこともしてあげられなくて・・・ごめんなさい。穢れをこれ以上拡げないように私も頑張るから・・・」
 そう言って微笑んでくれたレア様の顔を忘れられない。
 次にレア様を目にしたときには、変わり果てた姿になっていたから・・・

 私たちはレア様に見送られて、再びアイスさんの曳く馬車に乗って下に下りてきた。
 あまり時間もないし、レア様の負担も大きいからと私はすぐに準備したのだけど・・・
 甘かった。

 私はそれから2ヶ月インティナ地区で無駄に闘技場荒稼ぎ生活を送らざるを得ず、なかなか人間界に行くことが出来なかった。
 門を打ち破られた事で逃亡者が続出で、ギルドの依頼がパンク状態になっていて混乱しまくっていたから。
 たとえレア様の依頼でも、それを隠しての依頼となると重要度が下がる。
 私もランクが最低なので、余計軽視されて、依頼が正式に回ってきたのがあれから2ヵ月だった。
 門は修復が完了しないまま、工事が続いているけど捗っている様子もなく、ただ、門が壊れたお陰でまた税金が上がって生活は少し苦しくなった。
 そう言えば、あんなにはっきり衛兵に顔を見られていた『明モドキ』の手配書はギルドに来ていなかった。
 明を抱き込んだから、厄介だからターゲットにされてない、っていうことなのか・・・
 明のことは相変わらずわからなかった。
 こっちから一方的にテレパス送りつけたりしたけど、一切返事は来ない。
 ・・・不安になるから返事くらいくれたら良いのに、と思うんだけど、白霞宮はもしかしたらテレパスすら弾く構造なのかもしれない。
 そうだとしたらシアド様がいるかもしれない可能性は確かに上がる。
 兎に角そんな状況の中で、漸く来た依頼に私は不安を孕みながら人間界に降りていった。
 そこには、想像を絶するハチャメチャな毎日が待っているとは、知りもせずに・・・

2010/04/26 up

Web Clap
管理人のやる気の糧になります。
が、オリジナル御礼は現在1種のみ(しかもEGとは無関係)です・・・(遠い目)

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がっつきまくりですみません(苦笑)。


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小言で言い訳。
すみません実に一年ぶりの更新。
とりあえず場面転換したくてしょうがなく、最後のほうはもう駆け足でダダダッと書き上げました。
後で加筆修正したいです(なら載せるなよ)。
えーと、次は多分伸太郎フェイズ。
漸く学園生活パラダイスです(意味不明)。
ああ、色々練らないとなぁ、話・・・(おい)