第一章  

Y

 右の首筋に、軽い衝撃。
 痛みすら伴わなかったのに、全身の血管に蟲が這いずり回るような違和感が襲う。
「あたし達の目的はね。あんたの気を引く事だけだったのよ」
 チンクエの声が矢鱈に遠い気がした。
 気を失いかけていることに我に返り、衝撃の正体を見極める為に右手に握っていたノヴェの長刀を自分の背後へ突き立てた。
 手応えはあった。剣が俺の手から離れる。
 気配は一瞬にして消えた。
「・・・っ・・・」
 毒だ。
 即効性の・・・猛毒。
 俺は無意識に、毒を体から抜こうと、自分の傷口を深く抉ろうとした時。
 ぐん、と、腕を引っ張られるような感触があった。
 でも、誰も俺に触れてはいない。
「駄目ですよ。それは頚動脈・・・ それ以上深く傷つけると大変な事になりますよ」
 穏やかな女の声がした。
 初めて聞く声・・・ チンクエの声じゃ、ない。
 眩暈がする。
 血が・・・
 首から、二筋だけ細く血が流れ出しているのを感じる。
 それなのに、俺の手はその傷を確かめる事すら許さずただ宙を掻くだけ。
 この違和感は何だ・・・
 俺の体が・・・ 俺のものではなくなっていくような感覚。
 俺は、声の正体を探ろうとして首をめぐらせた。それにすら物凄く苦労した。
 それは異様な光景だった。
 女は、俺の放った刃をまともに右の脇腹に受けていたのに、それを深々と突き立てたまま、穏やかな笑顔でこちらを見ていた。
 血は流れている。
 上等そうな柔らかそうな布のドレスを赤黒く染めているのに、女の口許は穏やかに笑んでいるように見えた。
 ノヴェ、チンクエはその女の傍に跪いて控えていた。
 真っ黒で、視界が悪い。
 これが。
 この女が、この、闇を纏う正体だって言うのか・・・?
 女は、さも何でもないという仕種で、自分に突き刺さる長刀を抜く。
 血が、沢山溢れるかと思いきゃ、大した出血もない。この時点でおかしい。
「ノヴェ、大切な武器なのでしょう、簡単に手放してはなりませんよ」
「は、申し訳ありません」
 ノヴェは恭しい態度で自分の長刀を受け取り、べったりとついている血に舌を這わせた。
 うえっ。み、見たくない。
 その様子を、羨ましそうにチンクエが見ている。
 怖気のする光景。
 正直、裸足で逃げ出したい。
 いや、靴脱ぐ暇あったら先ず逃げるけど。
 俺は一歩後退ろうとしたら、体が何故か重たくて、覚束ない足元の砂利が鳴った。
 俺の立てた物音に、女は俺を再び注視した。
 本能が叫ぶ。
 こいつはヤバイ。俺の勝ち目のない相手だと。
 女の口許は紅い。俺の血で・・・染まっている。
 紅い口からちろりと舌が覗く。
「さあ、いらっしゃいな。こんなに血が流れてしまったのだもの、補わなくては死んでしまいますわ・・・」
 こんなおぞましい奴の所へなど、誰が行くか!!
 そう思っているのに、俺の足は。
 勝手に、一歩、前に出ていた。
「!?」
 何で。
 もう一歩。
 な、何で!!?
 もう一歩。
 完全に、体が、俺の意思に反して動いている。
 さっきの腕を引っ張られる感触も、同じだった。
 俺が、俺の意思じゃなく、そう、体を動かしている。
 食人鬼が、何故、人を食うことをやめられないのか、それは・・・
 そう、仕向ける毒を受けるから。
 ・・・何てこった。
 こいつが、まさか、大本、だって言うのか・・・っ!!
 こんな奴の。
 言いなりになど・・・
 こんな下衆の・・・
「喰いモンになんか・・・ましてや、仲間になど・・・誰がなるか、ボケがーーーっ!!!」
 ありったけの力で自分の体を地面から引き剥がす為に跳躍した。
 瞬間、傷口が開いたのか、首から血が勢いよく噴き出た。
 何とか、バランスを保てない体を律しながら奴等のいる場所から一歩でも遠ざかろうとして下がる。
 体が重い。
 たったこれだけの動きで、俺の息は簡単に上がっていた。
 耳の奥を、ざりざりと音を立てて、蟲が這いずり回っているような気がする。
 酸素不足で、眩暈が悪化した。
「うそぉ?」
 チンクエが珍妙な声を出した。
「抵抗できるなんて・・・」
 女は、一瞬、冴え渡る氷のような冷たい眼で俺を見た後に、もう一度唇に笑みを戻す。
「とても重いわ・・・貴方。」
 俺に言ったらしい。
 何だ、重い、って。
 俺、体型は標準か少し細いくらいらしいんだけど。
「私の意思通りに、普通は動かせる筈なの。貴方は思い通りにならない上に、抵抗まで出来る・・・ それは、とても特異な素質がなければ出来ぬ事・・・」
 女の目が再び細められる。
「貴方・・・何者? 仮面を外して顔を見せなさい」
 不意の命令に、俺の右手は勝手に動いていた。
 ぐっ、と、力を込めてみたが、腕に無駄に血管が浮き出ただけで大した抵抗は出来なかった。
 命に関わらない命令に、俺の危機感は多少油断していたのかもしれない。
 自分で、自分の正体を曝す醜態を、澄香達はただ観察しているんだろうか。
 ・・・ああ〜、後で、滅茶苦茶馬鹿にされそうだ・・・
 俺は、今この場を切り抜ける自信もないのに、そんなことを考えていた。
 仮面が、やけに高い音を立てて、石畳に落とされた。
 くそ・・・
 正体、ばれた・・・っ。
「え・・・っ」
「貴殿は・・・」
 チンクエとノヴェは俺の顔を見て目を見開いた。
 ・・・顔を、知られてる・・・
 そういう、反応だった。
 一緒に見られた。
 額の、忌まわしい印までも・・・
「そう・・・ こんな所に・・・」
 仮面が外れたお陰で、注視しなくても女の姿がはっきりと見える。
 肩まである髪は炎を宿したような橙色。
 内側にくるっと巻かれていて、女の年を判り難くしている。
 目の色は淡い紫で、暗闇でも不気味に輝いて見えた。
 綺麗な顔の女だと思った。
 耳が、少し尖っている。
「貴方の『天使』はどうしたのです?」
 ? 何のことだ?
「まさか、無自覚なの・・・?」
 女の目が細められる。
「まあ、いいわ。私も血を流しすぎたようです、少し疲れました・・・ 一緒に、来てもらいますよ。それから、ゆっくりと、時間をかけて懐柔して差し上げます」
 女は鮮やかに微笑んだ。
 な、なな、何だ、懐柔、って。
 ど、どうする俺。あんなのに何を言われても懐柔なんかされるわけないんだけど、俺の体がそれに抵抗できないような気がする。
 毒の気配が強い。
 俺の命はとらないけど、この毒は、俺の体を支配する。
 俺は、不本意に、食人鬼に変えられてしまう・・・
 嫌だ。
 絶対に、嫌だ。
 絶っっっっっっっっ対に、い・や・だ!!
 また、足が勝手に前に。
 一歩。
 ちょ・・・待て、俺。
 二歩。
 だ・・・っ、何で!!
 三歩。
 嫌だ、っつってんのに、何で俺の意思よりもこの女の意思どおりに俺の体が動くんだかわからない。
 女の目は異様に光って見えた。
 さっき、一瞬の隙に逃れられた戒めを、今は少しも解くことが出来ない。
「・・・ふう。本当に、『重い』わね、貴方・・・ これは彼と同じで、骨が折れそうね・・・」
 女が息を吐いた。
 その間に、急に体に自由が戻る。
 『重い』って言うのは、俺の体を使役するのに、矢鱈集中力を要すると言う事なんだろうか。
 何にせよ、俺の体は女の意思で、良い様に使われてしまうらしい。
 不味い。
 この、自由を奪われた体で果たして対等に渡り合えるか・・・
 うわぁ、ホント、マジキツイ・・・
 普段の百分の一も力出せない気がする・・・
「お疲れ。遅くなってスマンな、坊主」
 聞き覚えのある声が後ろから降り注いだ。
 遅ぇーよ!!
 と思って振り返ると、見慣れない容姿の4人が控えていた。
 ・・・おい。お前ら、それ、何の真似だ。
 多分、澄香、カイ、デルタ、オメガの4人で、今声をかけてきたのはデルタ。それはわかるんだが。
 お前らの仮面、俺のと・・・同じの、だろそれ。
 顔を、知られたくない相手、って事なのか・・・?
 身長も体格もそれぞれバラバラだから、普段一緒にいる俺には誰が誰だかすぐにわかる。
 とりあえず背が一番高くて体格がいいのがデルタ。
 その次にすらっと細身のオメガ、女にしては背が高い澄香、俺と同じくらいの身長、体格のカイ。
 髪とかはわからないように4人とも俺と同じように色とりどりのフードを被っている。
 あ、俺は今全曝し状態ですがね・・・
 その4人を値踏みするように眺めていた女が、口を開いた。
「まあ、漸く黒幕の登場かしら・・・」
 女は余裕の笑顔でこっちを見た。
「黒幕はそちらでしょう。黒幕というのは、悪役の方にこそ相応しいものです。我らは正義の名の許に人を喰らう悪行を裁く者。その言われようは不本意ですね」
 今応対したこの物言いは、澄香の口調に間違いない。
 でも、隠された仮面から覗く口許は、いつものように余裕の笑みは宿ってはいない。
 澄香程の奴が、気を抜けない相手だって事なのか・・・
 しかも、聞いた事ないぞ敬語。何で敬語?
 そして『正義の名の許に』って。何だか気恥ずかしいぞそれ・・・
 俺はそういうつもりでやってないから、そう言われるととても後ろめたいような気もしないでもないっつーかさ。
「正義? 何が正しくて何が間違っているかなど、後世の者が決めること。正義とは、力に宿るものです」
「そう仰るだろうとは思いましたよ、ダリア様。ですから我々は、それを全力で否定しようとしているのです」
 女の目が探るように細められる。
 その目が、俺のほうを向いた。
 途端にまた、体の自由が奪われ、俺の意思と関係なく動こうとする。
「お、俺じゃ、ねーからなっ!」
 逆らいきれず、俺が、澄香を羽交い絞めにしていた。
「貴方の使おうとした駒は、こうして、私の手に落ちたというのにですか?」
 勝ち誇ったように女は鮮やかに笑う。
「ふふ・・・ 笑わせるな」
 澄香も、女を前にして初めて、いつもの嘲りの微笑を口許に浮かべたのが視界にギリギリ入った。
 その様子に、一瞬魅入られていたのは認める。
「・・・えでっ!!」
 澄香に裏拳で鼻先殴られて、俺が怯んだ隙に俺の拘束から素早く逃れた澄香は、俺の鳩尾に踵で蹴りを入れた。
 全く自由が利かない体で、どっちも防ぎようがなく、俺は後方に吹っ飛び、俺の体をデルタがガッチリと捕まえる。
 それから、俺がこれ以上変な動きをしないように、逆にデルタが俺を抱え込んだ。
「・・・ごめん」
「まあ、仕方ねぇさ」
 俺の言葉に、デルタは苦笑した。
 それにしても澄香め・・・ クソ、手加減なしかよ痛ぇよぼけっ。
 ああー鼻血出てきた・・・
「これはな」
 澄香が俺を放置して女に言葉を続けている。
 ん?
 女は、俺がちょうど蹴っ飛ばされた時にシンクロしていたのか、少しよろけていた。
「貴方の血で穢されなければ、私など相手にもされぬほどの逸材。それを貴方は、巧く使うことすら出来ないではないですか。それで自分の手に落ちたと? ・・・自惚れるな!!」
 わ!! 三番目の眼!! 開いたっ!!
 俺は俺のことにイッパイイッパイだったから、周りに全然気が回っていなかったんだが、カイはノヴェと、オメガはチンクエと対峙していた。
 力は拮抗しているように見える。
 素早いカイは、ノヴェの長刀を軽くかわしているようには見えるけど、未だに攻撃に転じる事はない。
 冷静なオメガは、チンクエの魅了の術に深く嵌る事はないと思うんだけど、身動ぎもせずお互い睨み合っている。
 こんな時に。
 何で、こんな時に、俺の力が何の役にも立たないのか・・・
 何で、俺の体は、こんなに自由にならないのか・・・!!
「デルタ・・・ 放して、くれ・・・」
「駄目だ。今は、お前が敵になりかねん」
「でも・・・ でもっ・・・!!」
 俺は首を横に振った。
「心配してくれんだな・・・ 良かった。頭は毒されてないんだな・・・ 安心した」
「・・・っ、暢気、言ってる場合じゃ・・・っ」
 俺の必死さはデルタにはあまり通じなかった。
 デルタはいつも通りで、子供扱いで俺の頭をぽんぽん叩く。
「ま、見てろよ。お前だってあの三人の実力わかってんだろ。信用しとけって」
 デルタは、余裕の笑みさえ浮かべている。
 そう言えば、体の自由は戻ってきている。
 あの女、本当に俺の体を使役する時に物凄く集中力が要るみたいだ。
 澄香が能力の少しを出しただけで、澄香に集中せざるを得ないから、俺の体に構ってなんかいられないように見えた。
 カイは、徐々にスピードを上げている。転移も使って、ノヴェを翻弄しつつある。
 たん。という軽快な音をさせて、ノヴェの長刀を避けて着地した先は、ノヴェの長刀の切っ先だった。
 ノヴェがハッと慌てたように転移してカイの攻撃をかわそうとして現れた先には既にカイが待ち構えていて、カイは鋭い気砲をノヴェの顔面に叩き込んだ。
「ぐっ・・・!!」
 鮮血が迸る。
 が、ノヴェは倒れずにその場に踏ん張った所を、カイが小気味良い響きをさせて足払いをかけた。
 転倒する前にノヴェは転移で未だ足払いの姿勢のカイの背後に現れて長刀を振り下ろす。
 斬られた!!
 と、思ったら、カイの残像は掻き消え、ノヴェの横から現れたカイがもう一度気砲を放つ。
 気砲は軽く長刀の斬撃に真っ二つに斬られて後方にある建物を少しだけ破壊した。
 カイの茶色のくせっ毛が露になっていた。はらりとフードが背中に滑り落ちる。
 仮面は無事だったようだが、カイが舌打ちして仮面を着け直していた。
 額を傷つけられたのか、仮面から覗く頬の辺りに血が一筋流れている。
「なかなかお強いですね。流石『十の牙』ナンバー2・・・」
「・・・貴殿こそ。本気で正体を見極めたくなるほどに体術に長けているな。名のある体術家と見るが、どうか」
「こちらの詮索は勝負に勝ってからどうぞ。まあ、そちらもまだまだ本気ではないようなので、こちらも出方は考えますけどね」
 カイは額から流れる血を乱雑に拭った。
 表情見えないけど、多分、見たことない顔してるなぁ・・・ いつも温厚なのに、相手がよほどの相手なんだな・・・
 カイは気砲や光弾を使いこなし、体捌きも素早いオールマイティな戦い方が得意だ。
 飛び道具を使えるから、相手との距離が離れていても平気だし、逆にパンチやキックも出来るから、懐に飛び込んで戦っても互角に渡り合える。
 俺は、カイやデルタの戦い方を真似てるから、相変わらず鮮やかな体捌きに目を奪われつつも、ノヴェも互角に渡り合っているように見えて、息を呑んで見守っていた。
 あ、ノヴェのリミッター、何個か取れてる。徐々に本気モード入って来たのか・・・
「で、デルタ〜〜・・・」
「コラッ、名前言うんじゃねぇよっ、こっちの素性バレんだろが。大丈夫。あいつまだ半分以上遊んでるしな。ほら、あっちもな」
 デルタの示す方を見たら、オメガとチンクエが対峙していた。
 二人とも、俺が最初に見たのと同じ場所に留まっていて、一歩も動いてない。
「・・・なんも、変わんないじゃん・・・」
「違ぇよ。あの女、魅了の術が得意なんだろ。精神攻撃されてんのを、全部涼しい顔でかわしてんの。まぁ仮面してるからアレの表情読めないのもあの女には不利だな。精神波の残滓が外に零れてるんだけど、お前には見えないからただ睨み合ってるようにしか見えないだけさ。精神的な強さであいつに勝てる奴はいない」
 デルタの自信のある言葉だけが頼りの俺は、ただその様子を見守るしかない。
 見ていたら、ちゃりん、と軽い金属音が響いて何かと思ったら、チンクエのリミッターが何個か弾かれて石畳に転がった音だった。
「・・・っ、きゃあっ!!!」
 チンクエが、弾かれたようによろけ、額から傷もないのに血を流している。
 堪らず光の弾をオメガに放ったが、それはオメガの目の前にある見えない壁に阻まれてチンクエに戻って行った。
 チンクエは戻ってきた光弾を止むを得ず空に弾き飛ばし、またオメガを睨む。
「同じ事を何度試しても同じですよ。学習しない方だ」
 オメガは、チンクエの仕掛けてくる攻撃に飽きたようだった。
 面倒そうに、空を払うように手を頭の傍で振る。
「他には何も出来ないのですか? 私のようなタイプにだったら、体術などがもしかしたら効くかも知れないとか、思いませんかね」
 ・・・何その挑発・・・ オメガ、俺は、敵に回した時にアンタが一番怖いよ・・・
「な」
 デルタが俺に、そら見ろと言うように同意を求めてきた。
 まあ、何つーか、多分オメガは負けないだろうなぁ・・・
 何となく、何とかなりそうな方に行っている事に気を抜きかけていた俺は、頭上が突如閃光に包まれて我に返る。
 上空では、澄香とあの女・・・ダリアと呼ばれた女が戦っていた。
 ああもう・・・ 浮遊術は俺にはやっぱり使えないので、あの速度で転移、浮遊を繰り返す戦闘をするような奴らの戦闘を目では追えないんですけど・・・
「ど、どーなってんの、アレ」
 デルタを見上げると、デルタが真剣な顔で澄香達の方を見ていた。
「・・・キツそうだな・・・ 流石に、やはりまだ早かったか・・・」
「加勢に、行けよ・・・ 多分あの女、俺の体使ってこないぜ。そんな余裕ない」
「いや。これは、あの人にとっての宣戦布告でもあるんだ。邪魔はするなと命令されててな」
「馬鹿じゃねーの、自分が危ないのに・・・ あの女、そんなヌルイ奴じゃない・・・」
「大丈夫だって。俺らが今まで出てこなかったの、わざとなんだよ。ここら一帯に、魔属性に有効の戒めの結界敷いたんだ。その内、奴らはバテて来るぜ」
 言ったとおり、上空の女の影の動きが鈍くなってきた。
 その隙を狙って、澄香が特大の光の弾をお見舞いした。
 ぎゃああ!!
 女の肉片が、四方に飛び散って、残った下半身だけが傾いて地面に叩きつけられた。
「!! こ、殺し・・・!!」
 頭ごと吹っ飛んだ!! 絶対、あれは、殺しちゃったに違いない!!
「落ち着け」
 俺達の後ろに現れた澄香は、息切れしていて、あちこち服も切り裂かれていて、怪我こそしていなかったけれど、いつも俺が見る状態とは殆ど違っていて、俺は、澄香のその一言で全部の言葉を飲み込んだ。
「あれは死なんように出来ているんだ・・・見ろ・・・」
 のそのそと、ノヴェが女の体を抱えあげ、チンクエはドゥエを戒めた俺の結んだロープを解こうとしている。
 カイとオメガも、彼らの相手をやめ、俺達の傍に来ていた。
 何か、様子がおかしい。
 ドゥエもチンクエもノヴェも、心此処に在らずといった様子できょろきょろと辺りを見回している。
 まるで、俺達のことさえ忘れてしまったようだ。
「今のうちに退くぞ。あんなものは目晦ましにしかならんからな・・・」
「って、あいつら放って置くのか・・・?」
「戦力が足りん、あの女はこんなものでは死なないんだ、あいつらは、今、あの女の肉片を集めて再生しようとしている・・・ 再生が成るまで時間がかなりかかる筈。少なく見て三日・・・ その間にこっちも体制を整えねばならん」
「いや、止め刺すなら刺すで・・・」
「残念だが、あれを殺す方法が、今はないんだ・・・ 退くしかない」
「・・・っ・・・」
「悔しいのはわかるがお前の手当てもしなくては。それに・・・ こちらにも収穫がなかったわけでもない、追々説明する。いいな、退くぞ」
「・・・わかった・・・」
 俺達は、そこに残る奴らを放置して、そのまま逃げ帰ってきた。

 それで、俺がこの先どうするんだとかあれは何だとか聞いたら、澄香が、
「さて、どこから話すべきかな?」
 と、いつも通りに含みのある笑顔になって、先ず自分の身を清めに浴槽のほうに暢気に入っていったのを待たされたから、余計に苛立ちが増した。
 何か言いつけられているのか、カイもデルタもオメガも何の説明もしなかった。
 だから、澄香が戻ってきた時に俺はまずふざけんなと言ったのだった。
 ・・・でも。
 何だか、俺が思っていた以上に話がでかい事になってる。
 ゆ、勇者って、何だよ・・・
 何のつもりなんだよ、澄香!!

2008/01/03 up

<back/next>

mainmenu/novel's menu/ENDLESS GAME top


小声で編集後記のコーナー。
ぎゃああ。
戦闘シーンが苦手なのが露呈しました・・・ どうします!! この下手糞さ!! ぎゃああ。
いやいや、これから上手になれるように頑張りますよ!!
しかし一人称、面倒だなぁ、状況説明・・・
苦戦しているうちにどんどん戦闘シーン長くなっちゃいました・・・ 年越しちゃった・・・orz・・・
いつ、バックグラウンドを明かせるんでしょうか? あ。それはやっと次に。

それにしても、伸太郎は一度敵と認めて戦いだすと意外と冷徹非道であります。
その理由はまた後で書くことになるとは思います〜。