第一章  

X

 今日の朝。
 目を覚ました時から、野生の勘みたいなものが物凄い勢いで警鐘を鳴らしているような気がしたのに、俺はそれに気付かないふりをして、寝床から起き上がったのを覚えている。
 自慢じゃないが、この類の俺の勘は外れない。
 でも、それも毎日の食人鬼狩りの影響から、俺自身がぴりぴりして気が立っているだけだろうと、そう思った。
 俺だってヒトだから、機嫌のいい日や悪い日はある。
 今日は、そういう日なんだろ、と、半ば卑屈に諦めて、あまり身の入らない日中の勉強やら訓練やらを適当にこなしていた。

 そんな俺の気鬱を感じたのはファイだけだった。
 夕食時、あまり手の進まない俺に、ファイが無言で自分のフォークでポテトを刺して、俺に突き出してきた時に少し反省した。
 ファイは、澄香に言われた事をどう受け取ったのか、俺の身の回りのことを凄く気にかけてくれる。
 澄香自身は、俺が意外に思う程に、ファイを大切にし、良く着飾ったりしてくれたしマナーとかも根気強く教えたし、常識的というよりは貴族のように上等な教育をしてくれているように俺には映っている。それは、俺に対する態度とは全く違っているから、確実に間違いなく、そうだと思う。
 こういう時だけ、澄香って、女なんだなーと、妙に感心する。
 プサイ姐さんもファイを凄く可愛がってくれるらしく、優しくされる事に不慣れだった少女は、やっと馴染んでみんなと仲良くなる事が出来ているのに、俺だけが取り残されていた。
 ファイは色々な事を覚えるのも早く、文字を覚える事も既に出来ている。
 以前に澄香が言った、『良い拾い物をした』と言うのは、ファイの才能等のことを言っていたのかもしれない。
『食べなきゃ、だめ』
 俺の左の手の甲に、ファイは素早く文字を書いた。
 ファイは、声を失ったらしい。
 それは、オメガに問い詰めたら、以前に誰かが禁呪を使う為に『代償』にして奪ったんだという事を知らされて、一時期俺は凄く落ちた。
 でも、ファイは幼くても凄くしっかりしていて、オメガが教えたらすぐにテレパスを使えるようになり、とりあえず俺以外とは、普通に頭の中で会話が出来たりする。
 俺だけがファイの『声』を聞くことが出来ない。
 これは、もうしょうがない。無能力の俺が悪い。アンテナがないんだから、送信も受信も出来ない、そういうことだ。
 だけど、ファイは、俺を気にしてくれているのを凄く感じる。
 こうして文字を覚えてくれたのも、きっと、俺のためなんだろうと思う。
 心配かけちゃ駄目だな、ホント。
 ありがたく、突き出されたポテトを貰って、その後、ちゃんと全部食った。
 食わないと体も頭ももたない事を失念するほど何かに怯えていたのは、予感、という不確定のものだったのかもしれない。
 その日、仮面をつけて外に出た時には、その警鐘が耳の中で鳴り響いて煩いほどだった。
 と言って、俺はそれから逃げる事は少しも考えなかった。
 何かが起きる。
 その漠然とした危機感は、結局現実として、今ある危機として、俺の中に深く刻み込まれた。

+++☆★☆★☆+++


 何だ・・・ この感じ。
 誰も何も言わなかったけど、今日、何か変じゃないか?
 曇ってもいないのに、何でこうも闇が深いんだろう・・・
 見上げると、満月一歩手前の幾望の月。月明かりは明るいのに。
 繁華街だってちゃんと灯は灯っているし、どうしてこの景色を暗く感じるんだろう。
 外に出た時、先ず初めにそれが気になった。
 オーラを色濃く見せることが出来る仮面を通して世界を見ることに慣れてきていた俺は、ふと思いついて、人目を避けて仮面を外して景色を確認する。
 ・・・なんも、いつもと変わんないじゃん。
 そのことに気付いてある可能性を思いつく。
 ・・・まさか、この、闇の濃さは、誰かの、オーラ、だって言うのか・・・?
 しかも出所すらわからない程に、大きなもの。
 んな、まさか・・・
 ・・・待てよ。
 思い当たって、繁華街を歩く。
 灯は灯っている。
 でも、誰も外を歩いてはいない。
 なんで・・・
 この違和感から逃れる為に、建物の中に隠れて息を潜めている感じだ。
 ・・・何かヤバイ。
 俺だけがこれに気付かずに、一人ぶらついている事に漸く気付く。
 そう言えば、今日は珍しく澄香が出かける俺を見送った。
 しかも、「気をつけてな」とか言ってたよな、あいつ。
 俺を心配するって、あの澄香がだぞ。変すぎるだろ。あれは。
 ・・・気付いていたな、あの女。
 この、闇の正体、確かめろって事・・・なのか・・・?
 俺は意を決して、そう広くはない貧民区を歩いた。
 俺のこういう行動も、多分、澄香の思惑通りだったんだろう。
 今にして思えば、これが撒き餌というやつだ。
 大体、こんな禍々しい気配、俺が気付いて放って置くわけない、と思う澄香が憎らしい。
 ち、視界が悪い。
 仮面を通すと黒い霧に阻まれて視界がほんの僅かしかない。
 寧ろ仮面を外した方が身動き取れそうだけど、闇が深くなる方向に向かうのが闇の正体を掴む近道のような気がして、仮面を外さずに歩いた。
 万が一ばれても、洒落にもならないし。
 こんな不吉な夜に出歩くのは、やはり仮面の戦士だとしか思われないだろうから、そこは慎重になった。
 良く見えないから壁伝いを歩く。
 それでも、毎日歩く場所だから、今自分がどの辺りにいるのかは大体把握できた。
 噴水のある広場。
 噴水から水は今は出ていないが、静かに揺らめく水面だけが、月の光を反射してキラキラしている事に気付いて、一瞬だけ、気を緩めた時だった。
 全身を走る怖気から、咄嗟に地を蹴ってその場から離れた。
 轟音がして、俺が立っていた場所の石畳が土煙を上げて穴を作っていた。
 未だ体勢を整えてはいなかったが、殺気の掴み方だけは身に染み付いていたから、俺の背後に何かが回りこんだのを察して、俺はその影の鳩尾に肘を一発入れ、その後もう一度その場から離れる為に地を蹴る。
 第二波も正確に俺のいた石畳を軽く吹き飛ばした。
 二人?
 気砲の方向が背後じゃなかった。
 ヤバ!
 咄嗟に再び背後からの気配に気付いて横にかわす。
 金属が石を叩く、劈くような音が耳に響き、俺はその伸びてきた剣を避けて腕を取って、地面に叩きつけようとした。
 予想はしていたが、それは瞬間転移であっさり抜けられてしまい、気配は一瞬にして消える。
 その場を確認すると、やはり既にいない。
 石畳だけが鋭く細く抉られている。
 隠すことなく注がれる殺気は、二つじゃない。
 三つ?
 オーラは全員真っ黒い・・・でも、何だかこれがこの闇の深さの原因というには・・・少し弱いような・・・
「かはっ」
 一人が膝をついて血を吐いた。
 俺が肘を入れた奴が、我慢しきれずに胃の中のものを吐き出している。
 それは真っ赤に染まっていたが、胃を傷つけて吐いたものじゃない。
 食ったものを吐いた、ようにしか、見えなかった。
「あはっ。なかなかやるじゃない。ドゥエ、油断しすぎよぉ」
 吐いている奴の傍に寄ったのは、矢鱈に露出の高い服を着た女だった。
 黒のコルセットで矢鱈胸を強調している。
 少し目のやり場に困るだろうが、それ、動いたら大事なトコ出ないのかと、無駄な心配をしそうになる。
 あ、俺仮面つけてるから別に、視線を隠す必要はないんだっけ。
 下もギリギリのハイレグで、俺からすると明らかに『イカレた格好』だった。
 後ろから見たらケツ丸見えじゃないですかそれは!!
 ショッキングピンクの髪と瞳も正直すげえ迫力だ。
 肩できっちり切りそろえられた髪を、気取った仕種で掻きあげていた。
「ああ・・・ 勿体ね。さっき食べたばっかなのに」
 蹲って吐いていた男がのろのろと立ち上がった。
 年は、俺と似たような年に見える。まあ覚醒者ならあてにはならないが。
 短く刈った髪のせいで余計幼く見えるのかもしれない。
 一撃を入れた俺を睨みつける瞳は明るいグリーンで、闇の中でも輝いていた。
 こいつもあんまり厚着をしてない。
 殆ど体を隠していないようなベストに、膝くらいまでのズボンを穿いていて、その両方は茶のレザーで縁はもそもそとファーがついている。
 それ、裸で着たらこそばゆいだろう。
「軽口を叩くな。仕事を済ませるぞ」
 闇の中でもいっそう闇を引き立たせるような闇色の髪と瞳の男は、長刀を携え静かに佇んでいる。
 少しも乱れる事のない長い黒髪を頭の高い所でまとめて下ろしている。
 他の二人と違って、こいつだけ長身で、厚着をしていた。
 黒いロングコートは一切飾り気がない。
 ・・・三人とも、会話がちゃんとかみ合っている上、俺を物凄く下に見てる。
 上級・・・食人鬼だ。
 自らの食欲に溺れ、自ら望んで在る者達。
 抗う力を持たない下級や、なまじ自我が残る為に物凄い苦痛と誘惑の間を行き来する中級よりも、ずっと性質の悪い奴らだ。
 自分で食人鬼であることを認めてしまうと、自らの力を失うことなく、食人鬼として遺憾なく力を発揮できる。救いすら求めない、どうしようもない奴らだ。
 分が悪い・・・ 三対一か。
 澄香、ちゃんと聞こえてんだろ。
 助太刀ナシは、わざとなのか?
 腹を括る。
 仕方ない、一体ずつ行くか。
「まあ確かめるまでもないんだけど」
 斜な女が転移で俺の目の前に移動した。
 身構えていた俺は後ろに飛び退く。
「単純ねえ。転移使えないの? 動きが読みやすいわ」
 飛び退いた俺の動きを読んだように、俺の体を後ろからもう一度転移した女が捕らえた。
 つつーーっと胸元を人差し指で撫でられ、怖気が立つ。
「ねぇん、貴方が『仮面の戦士』なのぉ?」
 耳元に熱い吐息がかかった。鳥肌が立つ。
「今まで好き勝手してくれたけどさぁ・・・」
 後ろから抱きつく格好で俺に密着する女が寄越す背中のやわらかい感触に一瞬ぎくっと体が固まった。
 こ、この女、これが戦略なのか、性質悪い!!
「本当、すごぉく美味しそうなの。ちょっと味見・・・」
 さわさわと動く手が、胸を摩ったり俺の顎をついと上に向けさせたりした。
 手、手つきイヤラシイ。
 な、何だこの女っ。キモッ。
 後ろから生暖かい吐息が首筋にかかって、もしかしたら生理的嫌悪感だけで俺の体は動いたのかもしれない。
 つか、この間結構10秒くらいあった筈。逃げようと思えば出来たのに、男の悲しい性。
 女の髪を掴んで、逆の手は俺の胸を撫でる腕を掴み、さっきと同じ要領で堅い石畳に叩きつける。
 同じ要領だったから、思ったとおり地面に叩きつける前に女は転移で俺の投げ技から逃れた。
「痛ぁい!! ひ、酷いじゃない、髪は女の命なのに!! 禿げたらどーすんのよぉ!!」
 知るかンなの!!
 兎に角、一齧りでもされたら俺だって無事じゃ済まないって言われてんだよ!!
 正当防衛だろ今のは!!
「チンクエ、良かったじゃん、口つけてたら大目玉だぜ、ダリア様から」
 ドゥエと呼ばれた最年少っぽい男が、女をからかい半分に後ろから小突いた。
 ・・・ダリア?
 聞き覚えのある名前だったけど、まさか。と思ってその時はスルーした。
 てゆーかチンクエって、すげー名前だな、オネーサン。
 日本語にすると非常に微妙な響きですね、それは。
「まぁでも、俺的には美味そうと言うよりは・・・」
 ドゥエが俺に冷ややかな一瞥を寄越した。一瞬にしてその瞳に鮮やかな狂気が宿るのがわかる。こいつ、戦いに慣れてないな、ちっとも冷静じゃない。
 俺の顔に向かって一睨みだけで気砲飛ばしてきた。術式も組まない、純粋な能力だけの力。
 空気の圧力が眼前に迫るのがわかって、飛び退かずにその場で首だけを傾けて避けた。
 こういう余裕の態度を見せると冷静さを失いやすい奴は結構いる。わざとの挑発だ。
「正義面! すっげぇ、ムカつくんだよ!!!」
 想像通りで、俺に向かって手を翳す。
 わざとに地を蹴って、ドゥエの懐まで突っ込もうとすると、
「馬鹿!! 見え見えだって、さっきから言ってるだろうが!!」
 翳した手から、今度は目に見える光の弾が俺に向かってきた。
 もう一度地面を蹴って宙に身を躍らせてそれをやり過ごす。
 ドゥエの顔が嘲笑に歪んだ。
「だから、それも計算のうちだ!!」
 かわした筈の光弾が進路を変えて俺の頭上に移動した。
 それは、先程は拳くらいの大きさだったのに、今は人の頭二個分くらいの大きさになっている。
 ・・・それは、こっちにとっても好都合!! つか、見え見えだ、ってのはこっちの台詞だ!!
 思いっきり背中に被弾して、爆発で閃光が走る。
 その衝撃と、閃光の目晦ましを利用して、勢いを持って地面に叩きつけられる衝撃と共に、ドゥエの首に鋭く蹴りを入れた。
「ギャアアッ」
 俺の体重以上の力を首だけで受けたドゥエは、そのまま横に吹っ飛んでうつぶせに倒れた。
 首があらぬほうに向いていたが、上級がこんなんで死ぬわけがない。そのあたりの手加減は、もうだいぶ身についた。
「ギザマ・・・ ユルザナイゾ・・・」
 と、うつ伏せのまま、首の角度は真後ろを見て俺の顔を見上げるドゥエの背中にもう一撃蹴りを入れ、素早く持っていたロープで、腕と足を一つに背中で縛り上げた。
 多分、これ、本人には凄く屈辱的な格好だ。
 あーめんど。何でデルタもカイもオメガもこいつら封じに来ないかな。
 まあでもこれで・・・
「あと二人」
 立ち上がって見据えた。
 チンクエともう一人の男は、俺の様子に身構えた。
「な、何よ・・・ 正義の味方のくせに、やり方が物凄いわよ、こいつ・・・」
「だから油断するなと自分でドゥエに言ったのではないのか」
「だって、正義の味方なんてどうせヌルイ奴でしょって思ってたもの!! 調子に乗ってる馬鹿男だって!!」
 ・・・酷い言われよう。
「こちらのことを伊達に狩ってきた訳じゃないのだろう。充分こちらの対処法を弁えている様だ。被弾しながら無傷なのも侮れん。重ねるが気を抜くな」
 アンタ達のチームワークの悪さのお陰で一人は片付いたんだけど、そこはあまり気にしないのは、恐らくこいつらチームワークに不慣れだな。
 ・・・助け、来ねーしな。傍観決め込んだなあいつら。
 二対一。何とかするしかない。
 長刀の奴。こいつがリーダーっぽい。
 こいつは後回しで。厄介そうだ。
「お前から来いよ」
 女を指差す。
 挑発。気位の高い奴ほど効くんだこれが。
「!?」
「そこに転がってるのよりは強いんだろ?」
 見えているであろう口許にわざとに笑みを浮かべてみせた。
「! アンタ、いい性格してるわね」
「さっきみたいな下品な技が、どの程度通用するのかやってみなよ。もしかしたら俺もムラムラ来るかもよ?」
「まー何、このガキ!! アンタほんと生意気ね!! いいわ、絶対勃たせてあげるから!!」
 うわぁーなんだこの女。何つーか、名前どおりだ、馬鹿すぎる。
 さっきからの動きで何となく予想がつく。
 魅了の術が得意なら、俺がブレなきゃ術中に嵌る事はない。
「止せ。下らない挑発に乗るな。お前の術は効かん。下がれ」
「ちょっとぉ! アンタまで何!!」
「お前を挑発してくる時点で奴はお前の術を見切っている。挑んでお前の勝ち目はない」
「! 重ね重ね、ムカつくわね!」
 長刀の男はチンクエを諌めると、す、と、静かな仕種で剣を構えた。
 ・・・ち。
 状況判断も冷静で厄介だな。
「名を聞こう。私はノヴェだ。敬意を払い貴殿と一騎討ちを望む」
「は、直球。仮面をしている時点で名乗る気がないのを察していただけないものかね」
「通過儀礼だ。遠慮なくいく」
「いいのか? 俺はそっちのオネーサンに援護お願いした方がいいと思うけど。お仲間サンのプライドも傷つくぜ」
「私は仕事を為すまで。これは、補佐に連れて来ただけだ」
「仕事ねぇ。何、あんた等組織なわけ?」
「無駄口はここまでだ。参る!」
 おーお。何か武士っぽい。
 つか、話題出したのお前だろっての。
 流れるような動きでこっちに向かってくる。
 まるで軌跡が残像を残すような鮮やかな体捌き。
 長刀のリーチが長いのを見越して早めに後ろに下がったら転移で背後に回りこまれた。
 振り向き様真剣白刃取り。・・・なんて、そんなに簡単に決まる筈ない。
 良く磨きこまれた鈍く光る刃は青白い月の様だった。
 避けられない、仕方ない!!
 劈く金属音。
「・・・な・・・」
 ノヴェの瞳が驚きで見開かれる。
 仮面を庇うように突き出した左腕に、突き刺さるはずの刃を信じられないように見ている。
 その一瞬の隙に、右手で刃をそのまま掴んだ。あ、ちなみに、一応レザーの手袋は履いております。
「腕が要らないのか」
「そっちこそ。武器封じられてどうすンの」
「指が落ちるぞ・・・」
「試すか?」
 俺の言葉にノヴェが素早く飛び退いた。
 放置された長刀を浅く握って、俺は逆袈裟に薙いだのだが浅かったのか、コートの胸元を一筋斬りつけるに至る。
「・・・っ」
 ノヴェは少し慌てた様子で胸元を押さえた。
「何。実は女?」
 ま、そうは、全然見えないケド。過剰反応につい冷やかしが出た。まぁ、中には澄香みたいなのもいるし。
「俺、武器持たせられると凶悪なんだけど、まだやる?」
「・・・無論」
 ・・・はぁ。
 ギブは取れないわけね。
 でも、さっきからずっと感じていたことがある。
 それを指摘してやる事にした。
「本気で挑む気ないんだろ、あんた等」
「何だと?」
 ノヴェは表情を変えずに聞き返してきた。
 その後ろにただ黙って成り行きを見守っていたチンクエが興味深そうに俺を注視した。
「理由は三つ。
 一つは、先ず俺を食料として見ているわけじゃないって事。生け捕りが目的で殺意はない。殺気だけはすげーけど。そこのオネーサンも術に落ちかけた俺を本気で喰うつもりはなかったみたいだし、あんたのさっきの一撃も、仮面狙いで俺が腕を出したら一瞬引いただろ、あんた」
「・・・」
 二人は沈黙を以って肯定を伝えてきた。
「二つ目。全員、舐めてかかっているとはいえ、リミッターそんなに沢山ジャラジャラつけて、本気とは思えないって事。能力も術も威力半減以下だろうに、俺にハンデくれてるにせよ、どっかおかしいだろ、それは」
 俺はノヴェを指差した。両耳にジャラジャラと沢山のピアスがぶら下がってる。
 それは、チンクエにもあった。あ、そこで転がってるドゥエのは数が少ないような気もしたけど。
「異な事を言う・・・ 貴殿も、4つも強いリミッターを装備しているようだがな・・・」
 そういうノヴェは俺の腕を見た。
 これはつけないと色々俺が不便だからで、別に制御するようなもんじゃないんだよ、余計なお世話だ。
「俺のことは今は置いといて。三つ目は、あんた等三人、意識が散漫だって事。
 心、ここにあらずという感じで、挑んできている割には他に意識を取られている」
 それを聞いて、ノヴェもチンクエも少しだけ笑って見せた。
 その笑みにあるのは、明らかな嘲り。
 あれー。もしかして外したのか? 自信あったんだけどな。
「全問正解だけど、落第点・・・かしらね?」
「まあ、我等の目的はほぼ達成できたと言う所か・・・ チェックメイトだ」
 ノヴェが、そう言った時だった。
2007/12/27 up

<back/next>

mainmenu/novel's menu/ENDLESS GAME top


小声で編集後記のコーナー。
意外に長くなっちゃったので、本当は次のページも同じページにしていたのですが分けました。
何で戦闘シーンこんなに長くなっちゃったのかと言うと、好きだから?(笑)
まぁ、下手ですけどね(自虐)。