第5話  


「市場でレバ刺しに出来そうなほど新鮮なレバーゲット出来たぜー」
「わーい、食べゆ〜」
 シロが誇らしげにエコバッグを掲げたから、一応乗っておいてあげたら意外そうな顔をされた。
「生肉食うんだ・・・」
「え・・・ 何でっ。自分で言っといてその反応」
「いや、今色々問題だし。引くかなと思ってたんだが」
「処理が適切なら大丈夫だし、美味しいものは何でも食べるのっ」
「色気より食い気、花より団子ってやつか」
「ほっといてください」
 ・・・この人、一言多い。
 でも、ほんの短い間のコミュニケーションで、何となく免疫が出来てきたのか私もそんなにイライラしたりはしなくなっていた。
 ・・・いやいや、ショックすぎることがあったから、アレ以上のことはもうないからなのかもしれないけど。
「さて、一品決まったし、飯の支度するかな。こっちが本職なんだぜ、俺」
 シロはそう言いながら私の横をすり抜けてダイニングに向かう。
「え、本職?」
 確かに色々出来過ぎるけど、彼の『本職』というところに私の興味は向かっていた。
「そ。料理人だったの、俺」
「あっ、そうなんだ。何か、納得・・・」
「ん? なんで」
「だってアップルパイ、すっごく美味しかった。本格的な気がしてたの」
「お、それは嬉しいなー。また作っても食べてくれる?」
「勿論! あっ、白影君にも持って行ってあげたいなー。凄く甘党なの」
「おや。スイーツ男子なのか」
「うん。でも、あれで結構硬派で、一人でケーキ屋さんに行くのは恥ずかしいって言ってた」
「まあ、店にも寄るがファンシーな空間だからなぁ・・・」
「だからまた今度作ってもらったとき、余分に用意しておいて欲しいなぁって。お世話になってるもの、白影君には」
「そのようだな。・・・OK。作っておく」
 喋りながらもシロはてきぱきと食材を冷蔵庫に仕舞っていた。
「出来るまでまだもう少しかかるから好きにしてていいぜ」
「え、手伝うよ」
「今日くらい初日だから俺に任せな。そのうち手伝えとか言い出すから」
「えーー、了解」
 もう少しシロを観察してみたかったから、私はまた食卓テーブルにキッチンのほうを向いて座る。
 この場所はいつも私の席で、遙さんはテレビが見えるように私の向かいに座っているからいつもの席なんだけど、
「別に見守らんでも。もう悪さしないよ」
「・・・いや、見たくって。プロの技なら余計に」
「言うんじゃなかったな・・・ 逆にプレッシャーだ」
 手許を動かしながらもシロは会話に付き合ってくれる。
「献立なあに?」
「とりあえずレバニラは固定。レバ刺しはやっぱ怖いからヤメ。でも生肉食いたいとのリクがあったから生ハムカルパッチョ。パンプキンの冷製スープ。あと白米。他、食後デザートに桃。ってとこかな」
「無国籍だね〜。何料理専門だったの?」
「イタリアとフランスでちょっとだけ修行はしてたけど料理は『極める』ことが出来ないからな・・・ 何ジャンルなんだろうな?」
「極めれないの?」
「修行は一生だよ」
「あぁ、そうかぁ・・・ 職人さんだぁ」
「まあねぇ」
 話にちゃんと相槌を打ってくれるのに、包丁の音は小気味良く鳴り続けている。
 いつも一人でご飯の支度をしていて、話しかけられたら手が止まっちゃう私とは大きな差だ。
 むむむ、プロ・・・ さ、流石だ。
「ところでオベンキョーとかはいいのか、尊は」
「あ〜、いつも腹ごしらえしてから集中して2時間びっちり復習してるの。で、それから少し息抜きにDVD見たりゲームしたりしてるの」
「意外に遊んでるな・・・」
「だって人間の集中力って30分が限界なんだよ。その間に如何に効率良く叩き込むかにかかってると思うから、やってる間は他の事に目もくれないで全力なの」
「でも、DVDとかゲームだって全力だろ」
「え゛。何で・・・」
「ん? 当たりか? 勘だけど」
「ええええ」
 ちょ、シロって、人を見透かすのが上手い・・・
 危なく喋っている間に誘導尋問とかされてそうで、うっかり秘密を漏らしてしまったらどうしよう。
 ・・・あぁ、でも、たいした秘密は持ってないんだけども。
 あ・・・ そうだ。
 ちょっと聞いてみたかったことがあったんだ。
「ねぇ、この、ルピナス・・・ 綺麗だね」
「お、気に入った? 庭に咲いてたから毟ってきた」
「毟っ・・・ 駄目じゃん」
「実家の庭だよ・・・ 当たり前じゃねぇか」
「あ、そっか。ベランダにプランターでミニトマト作ろうとかは思ったんだけど、花は思いついてなかったから何か和むね」
「そうか? よかった」
「何か別の・・・意味はあるの?」
「さぁて。それはどうだろうな」
「・・・あるんだなさてはっ」
「教えない」
 シロは薄く笑って答えてはくれない。
「種明かしをすると意外に大したものじゃないものかもしれないしな」
「てことは、あるんだ!?」
 そう言われると気になる。
 私は無言で携帯で調べてみた。
 花言葉。ルピナス・・・
 あった。

「空想、制覇、母性愛、いつでも幸せ、多くの仲間、貪欲、私のやすらぎ・・・?」

「ど、貪欲・・・!」
 シロが私の呟きを聞いて手を止めて肩を揺らした。笑っているらしい。
「制覇、ってのもウケルな・・・ それはそれでアリかも知れん、くくっ」
「・・・え、何? ひょっとしてあとづけ?」
「教えないって言っただろ」
「言ってないよ! はぐらかされただけ」
「どっちにしろ教えない。まあ、結婚してから祝いも渡してなかったから、それもあるんだけどな。ささやか過ぎるが」
「そうなの?」
 聞いたら、シロは手許を見ていた視線を私に向けた。
 ・・・何だろう。このタメは・・・
「結婚おめでとう。いつまでも末永くお幸せに、って遙に言うのは照れ臭いだろ」
「・・・ちゃんと花言葉、入ってるよ」
「あとづけだけどな」
「え?? やっぱりそうなの??」
 何だか適当にあしらわれてる気がする。
 んー、何か納得行かない・・・
「母性愛、っていうのも何かいいな。花言葉ってどうとでもプラスに取れるしマイナスにも取れて便利だな」
「ホントは特に意味ないんでしょ」
「だから、教えないって」
 シロは結局その事を教えてはくれなかった。
 実はこれが、彼の自己主張だと私が気付くまでには、まだシロを知らなすぎて時間がかかることになる。

2011/07/24 up

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小声で編集後記のコーナー。
次シロ視点て言ってたんですが、それだとこっちでの伸太郎の影が濃すぎる形になっちゃうのでやめました。
何となく私が迷走しています。
やはりちゃんとプロット立てんとイカンな・・・