注:ここは『中立』シーンなので三人称。そして18禁。いきなり性描写あり。
しかも近親BLという三重苦です・・・ご注意くださいませ!!



第三章

Z

「・・・んっ・・・!!」
 喉の奥に流れ込んでくる熱い液体は自分のものなのか相手のものなのかも判らない程に混ざり合って、彼の躰を尚も煽る事が彼は不本意でならなかった。
「・・・随分不満そうだな・・・ 自分から誘ったくせに」
 彼の唇を塞いでいた彼の兄は、重ねていた唇を少しだけ離して囁いた。
 名残惜しげに二人を繋ぐ銀の糸が振動で弾ける。
 彼の兄は、そう言いつつも彼を愛おしげに見下ろした。
 彼は見慣れたが、彼の兄は誰もが息も忘れるほどに美しい。
 濡れたような漆黒の髪は少しの灯りでも星を飛ばしているように煌めく。
 整った黄金率の玲瓏黒曜石のような双眸は、長い睫に彩られながら自分に視線を注いでいる。
 兄にとって、自分がなんであるのかを厭というほど悟るたび、躰の奥から湧き出す欲望と後悔。
「・・・っ、血腥い・・・」
 彼は、唇が触れるか触れないかの距離にいる兄に、そう不満を漏らした。
「・・・そうか? 今日は自粛したんだぜ、これでも・・・」
「何が自粛だ、躰に染み付いてる・・・んっ!! 馬鹿、噛むな・・・っ!!」
 彼の兄は、彼の鎖骨に歯を立てていた。
「美味そうな鎖骨だからつい、な・・・」
「だからって噛むな、痕ついたらどうする・・・ひぁっ・・・!!」
 彼の意思とは関係なく、不本意なまでに自分の喉から淫らな声が漏れる。
 噛まれた鎖骨を労わるように、彼の兄は彼の鎖骨を舌でなぞった。
「痕などすぐに消せる」
「都合よく人の躰を弄ぶな・・・っ」
「じゃあやめるか・・・? 俺は別に構わないが」
 渇いた事を言いながら、彼の兄は熱の篭る瞳で彼を見詰める。
 その瞳が金や翡翠を浮かべながら自分を見つめていることに胸が詰まり、彼はその唇を自ら奪う。
 余計な事を言われるより、愚かに溺れて見せたほうが彼は楽だと思ったのだ。
 気が遠くなるほど何度も躰に刻み付けられた快楽は、そう簡単には躰から消えることはない。
 そして、嫌だという素振りを見せながら、彼は自分の兄をどうしようもなく愛してもいた。
 兄には絶対に自分が必要なのだと厭というほど思い知らされているし、いつしか自分も大切に思うようになっていることも、もう当たり前のことなのに・・・
 それでも、兄の昏い意識を拾うことが出来る彼は、そこから浮上させる術を持たない自分に苛立ちを覚えるのだ。

 少しでも兄の気を逸らせるなら・・・
 永劫の輪廻から、解き放たれる刻が来るなら・・・

 たとえ自分と質を異にしているとしても、兄が自分と同じように苦しんでいる事を彼は厭というほどよく知っている。
 そこから少しでも気を逸らせるのなら、刹那の快楽に意識を飛ばすほどに堕ちることも厭わない。
「・・・無理をしているのか?」
 兄も弟の意識を拾うことを得意としている。
 彼のことが大切だから、自分の慾などで穢したくはないと頭のどこかで思ってはいる。
 思ってはいるが、愛おしさの上に胡坐をかいて、これは愛情の交感なのだと自らに言い聞かせて彼の躰に触れる。
 触れるだけのキスから全てを貪るような深い接吻へ。
 舌先を痺れさせるほど深く絡まりあって、粘度を上げて蜜になった唾液で繋がりながら、弟の淫らな姿に心を痛めて見下ろした。
「・・・そう見えたか?」
 穏やかに笑う彼の顔には憂いも混ざっている。
 そんなことにさえ気付けないほど彼の兄は愚鈍ではなかった。
「・・・辛いなら、『換われ』ばいいのに」
「・・・それじゃ『俺』である意味がないだろ・・・」
「・・・じゃあ、俺が『変わろう』か?」
「よせ」
 弟は、兄を少し押して圧し掛かる。

「俺は『素体』のお前にしかこんなことは出来ない・・・」

 そしてまた唇を合わせた。

 弟には多数の人格があった。
 今表に出ているのは『素体』であって全てを統括する人格だが、中には兄を強く憎む人格も、兄を自分以上に愛する人格もあり、その全てを兄が等しく受け入れている事もわかっていた。
 兄を深く愛して常に触れ合いたいと願う人格に今躰を与えてしまえば、彼が望むことの全てを得る事が出来る事もわかってはいるが、これは元々自分の慾なのだ。
 たとえ、自分の一部なのだとしても自己の慾を別人格に与えたくはなかった。
 それは逃げでもあるような気がしたから・・・

「・・・今の一言は滅茶苦茶下半身に響いたんだが・・・」

 彼の兄は苦笑しながら彼の口付けを受けた。
 今は髪も瞳も本来の色ではないが、彼も今は『素体』としての姿だった。
 兄は自分を思い通りに『変える』力を持っていた。
 力はそれだけには留まらないが、本来の『素体』の自分がいい、と言う愛しい弟の言葉に躰が勝手に反応し始めている。
 提案を受け入れないことを知っていた彼の兄は、弟が望むのが自分であることに、どれほど心の奥で狂喜しているかを弟が知らないことをもどかしく思った。
 背中をソファの背凭れに押し付けられ、覆い被さるように口付ける弟の頭を撫でると彼も同じように兄の髪の隙間に指を入れる。
 いつになく積極的な弟に苦笑しながらも、兄は弟の行為を受け入れていた。
 口付けを交わしながら、彼が兄のシャツをのボタンに手をかけると、兄もまた彼のシャツを脱がせにかかった。
 上半身を顕にした二人が抱き合って向かい合う姿は、男同士であることを理解できても目を瞠るほどに美しいものだった。
 兄の躰は着痩せしていたのか筋肉が凹凸を作り上げていて無駄がなく、兄に比べれば幾分華奢な弟も、少し色素が薄くはあるが均整の取れて引き締まった美しい躰をしている。
 兄に覆い被さる彼は、遠慮がちに兄の乳首を口に含む。
「・・・っ、珍しいな、こんなことまで・・・ いつもは逆だろう」
「・・・黙れ。素直に好意に甘えてりゃいいんだよ・・・」
「そうか? ならもう少し触り心地と感度上げてやろうか」
「やめろ馬鹿。萎える」
「・・・お前な。女の方が触り心地いいだろうし俺も感じやすいんだが」
「さっき、言った。お前がいい、って・・・」
 弟はそう言って余裕なく吐息混じりに兄の尖り始めた頂を強く吸った。
 ちゅる、という淫らな音を立てて吸われる感触に、兄が微かにぴくりと震えた。
「・・・前言撤回。女じゃなくてもお前のすることは何でも感じる・・・」
 溜息と共に兄は自分の胸を愛撫する弟の頭を愛おしそうに撫でた。
 兄の、丁度心臓のある辺りの左胸には十字の傷があった。
 その傷を労わるように舌でなぞると再び兄が反応する。
 鼓動が聞こえる・・・が、兄からではなく弟から激しく響く。
 まるで呼応するかのように一つの鼓動が徐々に大きく鳴り始める。
「・・・っ、今日はお前が『攻』ってことか? リバーシブルで」
「馬鹿ッ、だからそういう萎えること言うな・・・っ」
「それとも・・・」
 覆い被さる弟の手を掴むと、兄はいともあっさりと体を反して弟を組み敷いた。
「その気にさせたら『受』に戻る、所謂『誘い受』ってやつか?」
「・・・んっ」
 有無を言わさず唇を塞がれ、抗議しようにも何も言えなくなる。
 言葉になどしなくても通じているのはわかっているから、弟は抵抗することなく兄を受け入れていた。
「・・・これだといつものパターンだが」
 兄は弟に覆い被さりながら、獰猛な獣を思わせる瞳で見下ろす。
「俺が、誘うのは珍しいだろ」
 こんなことを言うのも不本意だ、と言いたげな弟は、しかし、羞恥の為に微かに頬を染めてそっぽを向いた。
「・・・そうだったな・・・いつもはあいつが誘うから・・・」
 思い出したようにくつくつと喉の奥で嗤う兄の頬を、弟の手が両手で包む。

「今は俺だけを見ろ」

 そのまっすぐな視線に射られた兄は、根負けしたように溜息を吐き、いつにない真摯な瞳で弟を見下ろす。

「いつだって、お前しか見ていない」

 そう言うと兄は弟の体を味わい始めた。
「か、噛むな・・・」
「ん、舐めてるだろ・・・」
 弟の言わんとしている事を察した兄は微かに笑って首筋に舌を這わせると、弟が兄の肩をかり、と引っ掻いた。
「啼けよ」
 耳元で吐息と共に囁かれた低い声に、ぶるりと弟は震える。
 そのまま舌が耳を舐った瞬間に、またしても躰が反応して兄にそれを伝えてしまう。
「・・・ぅ、あぁ・・・」
 何度も繰り返された行為であるはずなのに、一向に自分が兄の愛撫に慣れることも出来ずに甘く疼いてしまう。
 いや、何度も繰り返されたからこそ、躰が馴染んでしまっているのか。
 今度は兄が柔らかく濡れた舌で自分を舐る感触がもっと欲しくて、かすれた様な声で喘いで兄を煽ってみせる。
 兄の抑え気味な低い声に比べて弟の声は少しだけ高い。
 いつもされる行為に余裕なく喘いでいる所為か、この時だけはやけにかすれて兄の欲情を煽るほどに淫らだった。
「ん・・・んっ、あ、ぁっ・・・」
「窮屈そうだな」
 兄が弟の穿いたルームウェアのズボンを下着ごとずり下ろすと、慾を訴える彼の象徴が自分の腹をぱちん、と叩くほどに屹立していた。
「・・・ほんっとに、珍しいな・・・ 『お前』なのか、これ? ここだけ『あいつ』なんじゃないのか?」
「んなわけ・・・あるか・・・っ!!」
 屈辱の方が勝り、僅かに上気した顔で強気に兄を睨む彼を、兄は見下ろしながら苦笑した。
「冗談だよ。あいつはもっと恥じらいを演じるのが巧いからな」
「比べるな・・・ ん、ぁっ!!」
 兄が屹立した彼の裏筋を指先でなぞっただけで彼は砕かれたように仰け反った。
「感度はお前のがいいかもな」
 反応を楽しみながら、兄は包むように彼自身を包むように握る。
 ほんの微かな刺激でさえ背を這う電撃が彼の意思を全て喰い散らかすように飛ばしてしまって、荒い息と、淫らな嬌声しか喉からは出てこない。
 兄の巧みな愛撫に勝手に腰が浮こうとする。
 波が押し寄せて返すように、兄の手を追って自身を馴染ませようと腰を僅かに浮かせると、兄は慾に濡れた目で弟の顔を一瞥した後、舌なめずりをして―――――
 かぷり、と、弟の雄を口に含んだ。
「あ、くぅ・・・っ!!」
 彼はまた腰を引いた。
 躰が砕け散るような快感に、一瞬で眩んでしまいそうだった。
 兄は敏感な括れの辺りを舌先で転がしながら、ちゅる、と音を立てて啜る。
「っぁ、っく・・・やめ・・・」
「るな、だろ・・・」
 ちゅぷん、と吸着音をさせながら彼の雄を解放した兄の唇と弟の雄は、先走りの露で粘る糸で結びついていた。
「どうして欲しいか言ってごらん。望み通りにしよう」
「・・・っ・・・」
 息を詰めるだけで彼は答えなかった。
 答える余裕もないほどに溺れている。
 虚ろな、熱く熟れたような瞳で兄を見返す弟に、兄は征服欲を再び掻きたてられる。
「言わないと続けられないだろ・・・」
 わざとに躰を離してみせる兄が、深い情欲に堕ちていることもわかっていて、弟は更に堕ちる言葉を紡いだ。

「お前のすることなら何でもいいんだ・・・」

 漸く、言い切った言葉なのに、兄は眼を見開いて珍しそうにまじまじと顔を見た後、すぅとその瞳を細める。

「今のは下半身に直撃したな・・・ あまり煽ってくれるなよ」

 言うと、兄は弟の慾の証を再び口に含む。
「あ・・・っ、ぁあ!」
 嫌じゃないのに腰が引けてしまう。
 それを許さず、兄は執拗に彼の慾を舐った。
 音を立てて何度も、ずるり、ずるりと兄の口を穢す己の慾の感覚に、躰のどこに力をおけばいいのかさえ見失って、背を反らせながら弟は虚空を見る。
「あぁ、ぁ、ッく、・・・もう・・・っ」
 兄の口を穢してしまう背徳感と、兄の口を穢したい劣情が混ざり合いながら、どちらにも感情を振り切ってしまった彼は、耐え切れずに精を放った。
 兄は受け止めてはくれず、兄の口を穢すことなく、弟は自らの腹に精を散らした。
「はぁ、あ、ぁ・・・」
 熱い液体で自らを穢した彼は、しかし未だに官能の淵に堕ちたまま浮上せず、虚ろな瞳で兄を見る。
 冷たく見下ろしている兄の顔は少しも穢れなど知らないかのようだったが・・・

 瞳だけが激情を訴えて金・・・を、通り越して紅く輝いていた。

「あ、や、やめろ・・・」
 兄が乱雑にくったりとした裸身の弟の体をソファに浅く座らせ、弟の躰を割り裂くように、足を大きく広げさせた。
「お前が欲しがったんだからお前はイッちゃだめだろう全く・・・」
「・・・ゃ、もう・・・ もう、いいから・・・」
「イイ、って・・・ どっちだよ」
 兄は、弟の放った精を指で掬い取り、慣れた手つきで彼の中を侵し始める。
「ぅあぁっ!! や、いやだ、兄さん・・・ッ」
「おい『換わった』だろ今。甘ったるい声出したって許してやらないぜ」
 弟は兄のすることに小さく抵抗するが、躰は正直で力尽きた筈の慾は再び力を戻していた。
 様子を違える弟の姿にも愛おしさと劣情を募らせた兄は、嗜虐心を掻き立てられて強引に滑らせた指を弟の隙間に埋め込んでいく。
 激情を押し上げるように指を二本出し入れすると、弟の体は身悶えするように震える。
 だが、兄の言葉を忘れたわけではないのか、油断すれば浮きそうになる躰も心も抑え込んで、ただ、兄の楔を待つ。

 意志の強い、非難するような彼の瞳も蒼く冴え渡るように冷たいのに、深い激情を思わせた。

 少し身を起こして、兄のスラックスを下ろさせると、確かに自分との行為で顕になってそそり立つ兄の慾があった。
 弟は兄のくれる指からの刺激を躰に受けながら、震える指先で兄を捕らえる。
 気付くか気付かないかの、短い吐息の揺らぎを感じた弟は、自分のすることに兄が反応することを確信して、兄を制して躰を傾け、兄の慾を下から舐め上げた。
「・・・っ!!」
 声にならない声で喘いだ兄は、弟の肩に爪を食い込ませて荒い吐息を零す。
「・・・どこでそんな事を覚えた・・・」
「お前がいつも『俺』にしていることだろう・・・『あいつ等』だって何度も・・・」
 兄の指から解放されて一時的に主導権を握った弟は、熱に浮かされたようにまるでアイスキャンディのようにそれを下から舐め上げる。
 ひく、と躰が反応することを確認して、兄を躊躇いなく口に含む。
 兄はまた、微かに吐息で喘いだ。
 口に全て含む事ができないところは掌で刺激して、兄をこれ以上ないほど高めようと、喉の奥まで迎え入れる。
 兄は、弟が無理をしていることも充分承知しているから、そこまでを求めようとする弟が愛おしくて動けない。
 弟を制したいと思う気持ちから弟の肩を掴むが、跳ね除けてしまうにはあまりにも躰が甘く疼いてしまう。
 普段の彼とは想像もつかないほどの弟の痴態に兄はぞくりと身震いした。
 ぢゅる、ちゅぱ、と淫らな音をさせながら、弟は頬で兄を強く吸う。
「・・・っ! もう、保たない・・・っ」
「ん・・・ くれよ、俺に・・・」
 誘うように兄を見上げる弟の上気した顔と冴えた氷のような瞳に射抜かれて、兄はくっと息を詰めた後、勢いよく弟の口内に精を放った。
 喉の奥まで侵すそれを、少し咽ながら彼は嚥下する。
 少し涙目になっているのに健気に受け止めようとした弟に更なる劣情を募らせた兄は、再び弟の足を割り裂き、ソファに寝かせるように押し付けて達したばかりの自分を抉じ挿れた。
「あ、ぁああぁっ!」
「あれで満足じゃないだろ・・・? 躰が悦んでる・・・」
「あ、ぁっ、お前、復活早い・・・んッ!!」
「誰を相手にしてると思ってる・・・?」
 躰に迎え入れた兄の雄が無視できないほど存在を主張している。
 幾ら慣らされたとはいえ、本来そういう器官でないところに異物が入り込む感覚は弟の顔を微かに歪ませた。
 喘ぐ事もなく、秀麗な眉を顰めるに留めた弟に気付いた兄は、手近にあったミネラルウォーターを呷ると、躰を一瞬引き、伸び上がるようにして弟に覆い被さった。
「あ、ぁあっ・・・!」
 先程より深く穿たれながら、兄は弟の顎を捕らえて口を開けさせ、口移しで水を与えた。
 弟の喉がこくり、と鳴る。
 細くゆっくりと与えられた水を飲ませ、兄は唇を離すと弟は甘く息を吐く。
 喉に絡まる兄の精と共に水を嚥下すると、媚薬でも嗅がされたかのように弟の躰が撓り、歓喜で揺れ動く。
 既に官能の杭となって打ちつけられる兄自身をきつく受け入れ、背を這う電撃に躰が反らされた隙に、兄は弟の背に手を回して躰を起こした。
 自分から跨るように兄を迎え入れる姿勢をとらされた弟は、暫く息を詰めて動けずにいた。
 動かずとも、躰が勝手に反応して兄を離すまいと蠕動している。
 当に大きくなった鼓動は相変わらず一つだった。
 まるで、そこには一人しかいないかのように。
 それとも、二人で一つであるかのように。
 兄は何も言わず紅い瞳で弟を見詰める。
 弟は潤む蒼い瞳で兄を見詰め返した。
 兄が何を望むのかを理解して、一筋、涙を零した。
「・・・お前が悪いわけじゃない」
 頬を滑り落ちる涙を親指で拭ってやると、弟は何も言わず瞳を伏せた。
 そして、少し躰を浮かせ、自ら沈ませる。
「・・・っ・・・」
「ん・・・っ、もっと、俺に・・・」
 くれ、という言葉を吐かなくても、弟は既に躰で兄に訴える。
 その訴えを受けて、兄の存在が弟の中で大きく膨れ上がる。
 躰の全てで兄を感じる為に、兄の背に縋りながら兄を迎え入れたり押しやったりするうち、自分が動いているのか兄が動かしているのかさえ判然としなくなり、混ざり合う呼吸と体液を感じながら、弟は兄と躰と心を一つに溶け合わせていく。
 何が目的で兄に抱かれているのかさえ見失って、貪るように兄を受け入れていた。
 背に回していた手はいつの間にか兄と指を絡ませていた。
 時折鋭く躰を貫く快感に、耐え切れずに弟の精は二人の胸や腹を濡らしていた。そんなことも構うことなく更に互いに上を目指して求め合った。
「お前、イキ過ぎ・・・ 与えるの追いつかない、だろ・・・」
「んっ、な、こと・・・ いわれ・・・たって・・・ぁうっ!!」
 漸く思い出した言葉のように、お互いにかすれた声で見詰め合う。
 お互いの吐息を感じるほど近くで囁きあう間にも、兄は弟への抽送をやめず、奥深くまで挿し込まれると弟の腰は勝手にびくんと浮いて、また沈み込む。
「・・・っ!! 俺から搾り取っても、出してたら意味ないだろ・・・ 終わらせたくないんじゃないのかお前・・・?」
「んな訳あるか・・・よっ・・・!! だって、こんな、されたら・・・んぁっ、んっ・・・!!」
 兄が動かなくなっても淫らに自分で腰を振ることに気付いた弟は羞恥で再び顔を紅くする。
 兄から何度となく受け入れた精が潤滑剤になって勝手に兄と密着する自分の内側が、意思と関係なく痙攣して締め付ける。

「っぁ! おま、えが・・・ イイ、と、思うところまで、お前の力を、くれ・・・」

「馬鹿だな。それじゃ、欲張っていつまでも俺も終われないんだぜ・・・?」

 弟の言葉を受けて、兄は艶然と微笑むと、自らの舌を鋭い犬歯で傷つけて、そのまま弟と唇を重ねた。
 弟はそれを受けて、深く舌を絡めあい、流される血潮を受け入れる。
 血腥さも感じずに、ただ甘い媚薬のようにその味に酔った弟は、傷ついた兄の舌を労わるように柔らかく触れ合う。
 唇の端からつう、と紅い軌跡が滑り落ちていく。

 二人は、一つの鼓動を高めあいながら存在の全てを混ぜ合わせていた。

+++☆★☆★☆+++


 漸く行為を終えたのは、夜が白み始めた頃だった。
 テレビが無機質な情報を垂れ流している中、兄はウィスキーを片手に煙草を蒸かしており、弟は未だ行為の残滓に苛まれて横たわっていた。
「・・・煙草くさい」
「・・・いつものことだろ」
「煙草の有害物質は・・・」
「主流煙より副流煙の方が多く含まれている、だろ。耳タコだ」
「・・・お前のせいでやっぱり血腥い・・・」
「・・・お前が我慢しないで出しちまうから・・・補おうと思ってな」
 指摘されて、弟は先程の気も狂わんばかりの交わりを体全体で思い出してしまいそっぽを向いた。
 それはとても悦かったからだ、などとは絶対に言いたくない。
「行為の後に煙草を吸う男の態度は、女にとって嫌な行動ランキングで上位なんだぜ」
「知ってるよ。お前は女じゃないし、いいだろ別に」
「・・・」
 そういう問題ではないが、恐らく彼の言いたいことを兄はわかっていてはぐらかしているのもいつもの事だから、細かいことを突っ込む事は諦めた。
「・・・また、救えなかった」
「・・・」
 後悔に似た感情で、弟は独白を始める。
 いつもの事とわかりつつ、兄は無言で聞いていた。
 テレビの無機質な音は、しかし、弟を打ちのめすだけの情報を放っている。
 また、近所で猟奇殺人と思われる事件が起きていた―――――
「また1人・・・ これで7人目・・・」
「・・・いや。連続で2人・・・ で、8人目だ」
「!!??」
 弟は兄の言葉に息を呑んだ。
「お前が・・・ 唆したのか!!??」
「・・・まあな」
 兄は大したことでもないような態度でふう、と煙草の煙を吐く。
「少し腹持ちのするモノを喰ったほうがまだ大人しくなるだろ」
「・・・お前は・・・!!」
 冷淡な、玲瓏黒曜石に戻った瞳で無感情に弟を見る。
 弟は怒りを滲ませた茶水晶に戻った瞳で兄を睨んだ。
「・・・俺達はプレイヤーであって、駒じゃない、ってことを忘れるなよ。俺もお前も手を下せばあっという間に世界は変わる。それでは何の意味もない」
「・・・」
 兄の言葉を受けて、弟の瞳から少しだけ険が薄れる。

「これは、彼らと彼女の拓く途なのだから」

「・・・わかってるよ」
「・・・なら、いいが」
 弟の瞳から険が抜けきったのを見計らって、再び兄は煙草を口に咥える。
「・・・でもやはりお前の乱喰いは認めたくない」
「・・・あぁ、アレもこれと同じ嗜好品・・・ 別に穢れは散らしてない」
「そういう問題じゃない」
 弟はやはり幾分不機嫌そうにそっぽを向いた。
 良心の呵責というものが希薄な兄を、いつも諌めているのに今回は自分も同罪だった。
 力の足りない自分を補ってもらう為に、兄を、喰って、いるのだから。
 例えそれを兄が苦とは思っていなくても、寧ろそうやって堕ちていく自分を果てしなく愛している事を知っていても、彼は罪悪感でいっぱいになる。
 そして、自分以外があの牙や唇や指先を触れているという事に、若干の嫉妬がないわけではない。
 もう、嫉妬する事もないほどお互いを知り尽くしているのに、チリチリと胸を焦がすそれの正体を、弟は突き止めるまでもなく知っていた。
「・・・少し、寝る」
 不毛な会話と、兄への感情が綯交ぜになった思考に堕ちるのが嫌で、彼は手近にあった自分の脱がされた服を纏ってからソファに横たわる。
「・・・ああ、良く休め。・・・休めないか」
 兄は弟の様子を見ながらくくっと喉の奥で嗤った。
 弟は兄ほど優れた力を持っているわけではない。
 ・・・が、一時的に兄から力を与えられれば使える力が少し増える。
 精神に働きかける事をよしとしない弟の矜持には反するが、弟にはどうしてもやらなくてはならないことがあることを兄は理解している。
 弟が素直でないことを良く知っている兄は、今、弟がどんな気持ちでいるのかを察しつつ、わざと神経を逆なでするような声音で言う。

「お前の大事な弟子によろしくな・・・」

 その言葉に、弟はまた兄を非難めいた瞳で見返した後、背を向けて眠りについていった―――――

2011/08/13 up

Web Clap
管理人のやる気の糧になります。
が、オリジナル御礼は現在1種のみ(しかもEGとは無関係)です・・・(遠い目)

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ご感想、誤字、伏線の拾いそびれ、デッドリンク、物語の齟齬などの指摘(←恥)、
ございましたら遠慮なくお願いします(他力本願)。
折を見て修正します(何か色々読み返したら見っけてしまったorz)。
お返事はNEW+MEMOにて。



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がっつきまくりですみません(苦笑)。


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小声で編集後記のコーナー。
誰?と思われたと思いますが(part2)。
まあでも、誰なのかはもうばれてるかもしれませんが表には出さないでおきます一応。
て言うか、久々のエロですのにBLとかホントすんません。
しかも設定的に兄はふたなり・・・両性具有設定です。
どうでもいいですが私は両性具有という言葉は大好物なんですがふたなりという言葉は好きじゃないんですね(苦笑)。
おっぱいがあってチンコもある躰には萌えないので、どっちかにチャンネルシフトできるお体です、兄は。
まあ、おっぱいとチンコ両立も出来る躰ですけども(笑)。
そして弟はこれでもかって程受け受けしいですが兄も思ってますが『何で女に生まれなかった』ってくらい受け受けしく敏感でいらっしゃいます。
まあ、兄に対してだけなんですけどね、彼も。
しかし反転してると思ってチンコ連発しすぎでしょ私・・・www